












「夏になると便が硬くて出にくい」「残便感がある」と感じる方は少なくありません。夏の便秘は、汗で失う水分に補給が追いついていないことに加え、食事量や食物繊維の減少、活動量の低下、朝食やトイレ習慣の変化など複数の要因が重なって起こると考えられます。
高温多湿の環境では体内の水分・塩分バランスが崩れやすく、この点は熱中症対策としても厚生労働省が注意を呼びかけています。一方、「冷房や冷たい飲み物が腸を冷やして便秘を直接引き起こす」と言い切れるだけの確かな根拠は十分ではありません。
この記事では、受診が必要な症状も含め、夏に変わりやすい生活習慣に焦点を当てて対策を整理します。
01
01夏の便秘とは?まず確認したい症状


「夏の便秘」は正式な病名ではなく、夏に便秘症状が現れたり悪化したりする状態を便宜的にこう呼んでいます。
排便回数だけでなく、便の硬さや出しにくさも便秘のサイン
便秘は「週3回未満しか排便がない」だけでは判断できません。日本消化管学会が発行する『便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症』では、排便回数だけでなく、便の硬さや出しにくさなども診断の手がかりとしています。毎日排便があっても、便が硬い、強くいきむ、残便感があるなどの症状が続く場合は、便秘の可能性があります。

週3回未満しか排便がない

便が硬くコロコロしている(ブリストル便形状スケール1〜2)

強くいきまないと出ない

便が出口でつかえる感じがする

出し切れず、残っている感じがする(残便感)
ブリストル便形状スケールでは、タイプ1(コロコロした硬い便)とタイプ2(ゴツゴツしたソーセージ状の便)は「硬い便」に分類され、便秘の目安になります。
排便回数だけでなく、便の硬さや出しやすさ、スッキリ出たかどうかも一緒に確認することが大切です。
夏前から続いている便秘は、夏だけの問題とは限らない
すでに夏前から便秘が続いている場合は、それは季節変化ではなく別の背景がある可能性があります。便秘には、器質性・機能性の分類や、薬剤性便秘、過敏性腸症候群(IBS)など多様な種類があります。これらの一般的な分類や原因の詳細は既存記事(便秘の原因やタイプ)に譲り、本記事では夏という季節特有の変化に絞って解説します。
02
02夏に便秘が起こりやすくなる4つの背景


「夏になって何が変わったか」という視点で整理します。

汗で失う水分に補給が追いついていない
高温多湿の環境では多量の汗とともに水分・塩分が失われます。厚生労働省は、のどの渇きを感じなくてもこまめに水分・塩分を補給するよう呼びかけています。
水分不足は便秘の要因の一つです。海外の総説では体液欠乏や水分制限が便秘増加と関連することが報告されており、国内の論文でも1日の水分摂取量が500mL以下と極端に少ない場合には排便量が減少し便秘症状につながることが示唆されています。
一方、もともと水分が足りている人が水を大量に飲んでも、必ず便秘が解消するわけではありません。夏は発汗量が増える一方、補給が追いつかない「水分不足」が便秘の一因になりえます。
食欲が落ち、食事量や食物繊維が減っている
「夏バテ」の時期はそうめんやパンなど単調な食事で済ませ、便の材料となる食事量自体が減ることがあります。食物繊維には、便のかさを増やしたり、便通を整えたりする働きがあります。成人の慢性便秘を対象とした研究のまとめでも、食物繊維を補うことで排便回数や便の硬さが改善したことが報告されています。
大切なのは「冷たい食品自体が悪い」のではなく、食事内容が単調になることで食物繊維や野菜・海藻・豆類の摂取が減ってしまうことです。麺類中心でも具材を工夫すれば対応できます。
朝食・睡眠・トイレのリズムが変わっている
夏休みや旅行で生活リズムが乱れやすい時期です。朝食が不規則になったり睡眠不足になったり、外出先で便意を我慢したりすることが便秘悪化につながります。2024年の研究レビューでは、睡眠不足や睡眠障害と便秘との関連が報告されています。
また朝食後は「胃結腸反射」が最も活発になるタイミングで、食べ物が胃に入ることで大腸の動きが促され朝の排便が起こりやすくなります。夏に朝食を抜く習慣がつくとこのタイミングを逃しやすくなります。
暑さを避けて活動量が低下している
猛暑日には外出を控える方が多く、活動量の低下も便秘の一因になりえます。身体活動量が多い人ほど便秘リスクが低いという関連が複数の研究で報告されており、日本人の若年者を対象とした調査でも、運動頻度が高い人や友人と運動する人では、便秘を自覚する割合が低いことが報告されています。
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03冷房や冷たい飲み物は夏の便秘の原因になる?


便秘を直接引き起こすという根拠は十分ではない
「冷房で腸が冷えて動かなくなる」「冷たい水を飲むと腸が止まる」といった説明を裏付ける確かな医学的根拠は十分ではありません。
冷たい飲食物が消化管の動きに一時的な影響を与えること自体は研究で確認されています。冷水を飲むことで常温の水と比べて食道の収縮の強さが一時的に低下することを示した研究もありますが、一時的な反応を調べた小規模研究であり、「冷たいものが大腸の慢性的な機能低下や便秘の直接原因になる」とは一般化できません。夏の便秘は複数要因が重なっている可能性が高く、冷房や冷たい飲み物だけを原因と決めつけるのは適切ではありません。
冷たいものを摂ると不調が出る人は温度を調整する
冷たい飲食物で腹痛や膨満感などの不調を感じやすい方は、常温や温かい飲み物に切り替えるなど体調に合わせて調整するとよいでしょう。ただし「冷たい水を避けよう」とするあまり、飲水量そのものが減ると水分不足による便秘リスクを高め逆効果になりかねません。冷水か常温かにこだわりすぎず、必要な水分量を確保することが大切です。
便秘対策のために冷房を止めない
便秘が気になるからといって冷房の使用を控えることは勧められません。熱中症は命に関わる急性の症状であり、便秘よりも優先して予防すべきリスクです。冷えを感じる場合は設定温度や風向き、衣服で調整しましょう。
04
04夏の便秘チェックリスト


診断のためのリストではなく、夏になって変わった生活習慣に気づくためのセルフチェックです。

夏になって便が硬くなった

汗の量に飲み物の量が見合っていない

尿量が少ない、尿の色が濃いと感じる

朝食を抜く日が増えた

麺類や軽食だけで済ませる日が多い

野菜・豆類・果物・海藻の摂取が減った

歩く時間が減った

睡眠時間や起床時刻が乱れた

旅行や外出先で便意を我慢することが増えた

新しく始めた薬やサプリメントがある
該当する薬やサプリメントがある場合は、便秘の副作用が関係している可能性もあるため、後半の「薬やサプリメントを自己判断で変更しない」も参考にしてください。
05
05夏の便秘を予防・改善する5つの対策


のどが渇く前に、タイミングを決めて水分を摂る
環境省は「健康のため水を飲もう」推進運動で、起床時・入浴前後・日中のこまめな補給を推奨しています。眠っている間にも汗をかいて水分が失われているため、起床時の水分補給は睡眠中に失われた水分を補ううえで有効とされています。入浴中も汗をかくため、入浴前後の水分補給も大切なタイミングです。基本的な目安として食事以外から1日約1.2Lの水分摂取が勧められますが、体格や発汗量、持病によって大きく異なります。水分や塩分の摂取量に制限がある方は、医師の指示を優先してください。経口補水液は日常の水分補給用ではなく、脱水時に表示や専門家の指示に沿って使いましょう。
夏の食事は「麺だけ」で終わらせない
食欲が落ちがちな時期でも、そうめんやパンだけで済ませず、オクラ、わかめ、きのこ、納豆、卵などを加えたり果物や豆類を組み合わせたりして食物繊維や栄養素の摂取量を保ちましょう。ただし、多ければ良いわけではなく、急な大量摂取はお腹の張りにつながることもあるため少しずつ増やしましょう。
朝食後の排便リズムを取り戻す
起床後にコップ一杯程度の水分を摂り、量が少なくても朝食を摂ることは胃結腸反射を利用して排便リズムを整えるうえで役立つとされています。食後15〜45分程度を目安に、無理のない範囲でトイレに向かう習慣をつけましょう。便意を我慢しないことも大切です。
涼しい環境で活動量を確保する
炎天下での運動は熱中症のリスクを高めるためすすめられません。涼しい時間帯の散歩や室内でできる軽い運動、日常のちょっとした移動を取り入れましょう。熱中症警戒情報が出ている日は、屋外での運動を控えてください。
1週間、便と生活の変化を記録する
便の形状、排便回数、飲水量、朝食の有無、活動量などを記録してみましょう。一度に全て変えず、まず記録から始めて生活のどこに変化があったかを把握することが大切です。1日だけで判断せず1週間程度の変化を見ていきましょう。
06
06夏の便秘対策をしても改善しないときに見直すこと


便秘には複数の原因がある
慢性便秘症には大腸通過遅延型、便排出障害、IBS、基礎疾患による便秘、薬剤性便秘などさまざまなタイプがあります。水分不足だけに限定せず、こうした可能性も踏まえることが大切です。詳細は既存記事「便秘の原因やタイプ」で解説しています。
薬やサプリメントを自己判断で変更しない
鉄剤やカルシウムを含むサプリ、一部の処方薬は便秘を引き起こすことがありますが、自己判断で中止するのは避けてください。市販の下剤を長期使用している場合も医療者への相談をおすすめします。
07
07便秘と腸内フローラ|夏の腸活を自分に合う形で考える


腸内細菌は食物繊維などを利用して短鎖脂肪酸などの代謝物を作り出し、腸のはたらきや便通と関わっていると考えられています。夏に水分・食事・生活習慣を見直す際、腸内フローラという視点を加えることで自分に合った対策を考える材料が増えます。
chatFLORA Gの「便秘・下痢」カテゴリで確認できること
chatFLORA Gの「便秘・下痢」カテゴリでは、便形状タイプに応じたレポートやアドバイスを確認でき、便秘関連菌・下痢軟便関連菌が多いか少ないかについても知ることができます。さらに、検査結果に応じたおすすめ食材・栄養素・行動習慣も提示されるため、夏の便通や食生活を見直し「次に何を変えるか」を考えるための具体的な材料として活用できます。
なお、chatFLORA Gは便秘を診断・治療するための検査ではありません。参考情報としてご活用のうえ、強い腹痛や血便などの症状がある場合は次章の受診目安を確認し医療機関にご相談ください。
08
08夏の便秘で医療機関を受診すべき目安


以下のような症状がある場合は、セルフケアを続けず早めに医療機関を受診してください。

血便や出血がある

強い、または持続する腹痛がある

便もガスも全く出ない

嘔吐や発熱がある

急に便通が変化した、意図しない体重減少がある

50歳以降で新たに便秘が始まった

大腸がんなどの既往歴や家族歴がある

セルフケアを続けても改善しない
※これらは、国内の便秘診療ガイドラインとNIDDKが示す警告症状や受診の目安をもとにしています。
熱中症の症状を伴う場合は便秘対策より熱中症対応を優先
めまい、頭痛、吐き気、倦怠感が便秘の症状と同時にある場合は熱中症の可能性を考える必要があります。厚生労働省は、返事がおかしい、意識がない、自力で水が飲めない場合はすぐに救急要請をするよう呼びかけています。この場合は便秘対策よりも熱中症への対応を優先してください。
09
09まとめ|夏に変わった習慣を一つずつ戻そう


夏の便秘は、汗で失う水分に補給が追いついていないことに加え、食事量や食物繊維の減少、朝食・睡眠・トイレのリズムの変化、活動量の低下など複数の要因が重なって起こると考えられます。冷房や冷たい飲み物を一律に「悪者」にする必要はなく、熱中症予防としての冷房使用は優先すべきものです。
こまめな水分補給、麺だけで終わらせない食事の工夫、朝食後の排便リズムの見直し、涼しい環境での活動量確保など、夏になって変わった習慣を一つずつ元に戻すことから始めてみましょう。腸内フローラという視点を取り入れたい方はchatFLORA Gの「便秘・下痢」カテゴリも参考にしてください。血便や強い腹痛など受診が必要なサインを見逃さないことも忘れずに、無理のない範囲で夏の腸活に取り組んでいきましょう。
参考文献
便通異常症診療ガイドライン2023―慢性便秘症(日本消化管学会)
NIDDK「Symptoms & Causes of Constipation」
Eur J Clin Nutr. 2003,57:S88-95
Am J Clin Nutr. 2022,116:953-969
J Clin Neurosci. 2024,126:12-20
Physiology, Gastrocolic Reflex, StatPearls, NCBI Bookshelf, 2023
J Neurogastroenterol Motil. 2014,20:79-86
NIDDK「Treatment for Constipation」





















